英単語の暗記に関して、大多数の英語勉強法がおすすめしている方法:
「英単語は、例文や文脈で覚えるべし」

なんとなくその方がよさそうな気はしつつも、こんな思いをお持ちの方もいらっしゃると思います。
「根拠はあるの?」
「例文や文章、読むと時間かかるしなぁ。知らない単語が出てきたり。」
「例文のおかげで覚えやすくなってる気がしない。」

これらの疑念、実は正しいです!
それを示す論文や書籍が多数あるので、ここではその一部を紹介いたします。
取り上げた論文には、実験の詳細が具体的数値とともに記載されているので、それも詳しく紹介します。

要旨

上記の論文などを踏まえてこの記事がお伝えしたい要旨は次の通りです:

例文や文脈を使っても、必ずしも記憶効果は上がらない。
正しく使って、語彙力アップ!

語彙学習に関するこれまでの研究結果から、以下が示されているとのことです*

単語を学習する際に文脈(用例)を一緒に提示することは、記憶保持にほとんど影響を与えない

* 英単語学習の科学
中田達也 著

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影響がないどころか、文脈中心よりも効果的なやり方があると、今回紹介する論文は主張しています:

単語に集中できる方式の方が、文脈中心の方式より記憶保持の上では効果的

ただしこれは文脈そのものの否定ではなく、単語に集中できる形になっていれば効果的とのこと。
でも文脈を使うのに単語に集中できる形って具体的には?
以下で解説します。

そして以下の当たり前の主張。

単語の習得にはある程度の期間での繰り返しが効果的

もしも文脈を使うことで、繰り返しが促進されるなら、語彙力アップに有効と言えます。
でもそんな方法ってあるの?

詳しく見ていきましょう。

クイズ

突然ですがクイズです。

問題

あなたは英語が平均点以上の高校生です。
これから20個の英単語を学習します。(reign, avidlyなど使用頻度が低いもの)
学習後のテスト(単語の意味を四択で回答)で最も成績がよくなる学習方式は、次の4つの内どれでしょう?
なおテストは A)学習直後と B)5週間後の2回です。

  1. 単語式:単語のみ学習 [10分間]
  2. 例文式:単語と例文を読む学習 [10分間]
  3. 文章式:単語が入った文章の読みと、文章の理解度確認 [55分間]
  4. 詳述文章式:単語が入った詳述文章*の読みと、文章の理解度確認 [55分間]
    *単語の類義語や解説付き

注)4つの方式とも:
 ・ターゲット単語の意味は提示されます。
 ・学習の仕上げとして、最後に空欄補充の練習 [15分間] を追加で行います。

各方式で提示されるイメージは次の通りです:

方式提示イメージ
1.単語式reign – 支配する
2.例文式reign – 支配する
・The people were unhappy under the reign of their cruel king.
3.文章式“ … It was a stereotype seized upon avidly by the film industry. … “
欄外注) ・avidly – 熱心に
4.詳述文章式“ … People willingly adopted this image and it was a stereotype seized upon avidly by the film industry as well. … “
欄外注) ・avidly – 熱心に

解答

正解はこちら!

「例文や文章で覚えるべし」が刷り込まれている方には、信じがたい結果かもしれません。
これって単なる仮想のクイズなんでしょ? よくてネットのアンケート? 

いいえ。University of Haifa(*)の先生による研究結果です。
クイズとの差は、被験者があなたではなく、イスラエルの高校生だったことくらいです。

* イスラエルで4番目に古い大学
 大学世界ランキング(#)601~800位 

出典:Wikipedia: https://en.wikipedia.org/wiki/University_of_Haifa

# Times Higher Education World University Rankings 2022
 参考:早稲田大学:801~1000位
    上智大学:1201位~

出典:THE: https://www.timeshighereducation.com/

論文の紹介

新しい単語の記憶(短期と長期)と学習方法(単語提示の様々な方式等)との関係を分析した論文です。
当時の多くの教師が「単語は文脈で提示されるべき」と信じていたことにも触れています。

タイトルと著者

Memorizing New Words: Does Teaching Have Anything To Do With It?
Article in RELC Journal · June 1997

Batia Laufer and Karen Shmueli
University of Haifa

実験研究

実験研究の問い(テーマ)

単語の記憶(短期と長期)は、以下の3つに影響されるのか。

  1. 単語提示で与える文脈の量
  2. 単語提示で使う言語
  3. 上記2つの相互作用

*この記事では2.と3.についての内容は割愛しています。

実験研究の内容

被験者:イスラエルの高校生(母国語:ヘブライ語)

  • 5グループ(19人、34人、20人、25人、30人*)
    *30人はコントロール用。この記事では関連の分析は省略
  • 英語の成績:できる~よくできる

学習対象:英単語20個

  • reign, avidlyなど使用頻度が低いもの
  • 被験者が未修であることを事前に確認

ステップ:

  1. 学習
    1. 各方式で学習 [10 or 55分間]*
    2. 仕上げ練習 [15分間]
  2. 単語保持のテスト(学習直後)
  3. 単語保持のテスト(5週間後)

*各方式での提示内容はクイズ欄を参照
 ターゲットの意味は10個は母国語、10個は英語で提示
 →両者の差異分析は、この記事では割愛しています。

単語保持テストの方法:

  • ターゲット単語を提示し、意味を4つの選択肢(英語で記載)から選ばせる
  • 学習した20単語全てを提示
  • 正答個数(正答率)を評価
  • ターゲットは使用頻度が低い英単語なので、5週間後のテストまでの間に被験者がそれらに接することは極めてまれであると想定

実験研究の結果

論文の数値を次のグラフにまとめました。

Result of the experiment comparing four teaching modes

論文筆者の考察1

〇 1.単語式と2.例文式の方が、3.文章式と4.詳述文章式より優れていた。

〇 言い換えると集中志向の方式の方が、文脈志向の方式より記憶の上では効果的

〇 さらに集中志向の方式は25分と短時間。

〇 文章式での文章を外国語にすると、詳述の効果が出ないことを今回の結果は示唆。以下が想定理由。

  1. 内容理解のための読みでは、既知でない単語は読み飛ばされてしまう。
  2. 文脈からターゲットの意味が容易に推定可能だと、忘れられてしまう。
  3. 与えられた関連文脈が効果的でない。
    (関連文脈が記憶の上で最も効果的なのは、学習者によって作られた場合)

論文筆者の考察2(他者の研究)

別の同様な研究(Mondria 1993*)が引き合いに出されます。
その研究では、次の表のように、文脈(文章)は母国語で提示されていました。(ターゲット単語だけ英語)

方式など 提示イメージ
3.文章式
【今回】
“ … It was a stereotype seized upon avidly by the film industry. … “
欄外注) ・avidly – 熱心に
↓↑
3.文章式
【他の研究】
“ … それは映画業界から avidlyに急な脚光を浴びた固定概念だ。 … “
欄外注) avidly – 熱心に

* Mondria, J.A. 1993. The effects of different types of context and different
types of learning activity on the retention of foreign language
words. Paper presented at the 10th AILA Congress, Amsterdam.

両研究の結果を次のグラフにまとめました:

Comparison with the other study conducted by Mondria, J.A. in 1993

〇 他の研究では、3.文章式 > 2.例文式 > 1.単語式となっており、今回の結果と一見矛盾する。

〇しかし二つの研究は以下の点で異なっているため、結果に矛盾はない。

  • 他の研究では文章は母国語で提示されていた
    → 被験者がターゲット単語に集中できたと想定
  • 他の研究ではテストがあることが明示されていた
    → 被験者がターゲット単語に集中できたと想定

語彙力アップの方法

冒頭に記載した要旨:「例文や文脈を使っても、必ずしも記憶効果は上がらない」
ご理解いただけたと思います。

では語彙力は、1.単語式で鍛えればいいのか?
いいえ。もっといい方法があります。

「学習者がターゲット単語に集中できる方式の方が、文脈中心方式より効果的」
 → 学習者のターゲット単語への集中を促せる例文や文脈なら効果的

単語に集中できる例文や文脈の提示方法は、上に記載した中に(論文中に)ヒントがありました。

◇ 例文・文脈を母国語で提示する

◇ 自分で例文・文脈を作る
執筆者注)興味がある分野、既知の内容が有効と想定

更に!
実は今回の論文では、語彙力アップで極めて重要な「繰り返し」について触れらていません。
(学術研究なので、影響要素を絞り込んで分析するので当然ですが。)

「繰り返し」やretrieval(検索・読みだし)を、1.単語式よりも促進できる方法がないか考えてみましょう。
例文や文脈を使えば。。。

そうです!

◇ 日常生活で出くわしやすい例文・文脈を使う

◇ 興味があって繰り返し思い出してしまう例文・文脈を使う


具体例:

  • 好きな歌の歌詞(日本語でもOK)を例文にする
  • 毎日勉強する数学などの用語や概念を例文にする

実は、Raitclubの「おとくな理系コンテンツ」は、上記のポイントに沿って開発されています。
例えば「中学数学」編。
毎日出くわす数学の用語が例文。それぞれ日本語付き。

サンプルを確認してみてください。
◇ 確率・統計より

確率の求め方こちらです データの分布の傾向こちらです

「おとくな理系コンテンツ」を活用するなど、上記のポイントを抑えた学習方法で、語彙力をアップさせましょう!


ご参考になれば幸いです。